私は最近サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジを渡ったところにあるマリンカウンティの禅センターを訪れて、そこの美味しい空気を胸いっぱい吸わせてもらってからまたシスコに帰ってくるという楽しみを覚えた。以前は近くの道路を素通りしていただけの禅センターに先日初めて出かける機会があり、それ以来大好きになってしまった。入口を入るとすぐにユーカリの大木の香りが出迎えてくれて、思わず深呼吸をしてしまう。こういう空気を四六時中吸えたらどんなに良いだろう。
禅センターの敷地内にはグリーン・ガルチという農園があり、有機野菜と花と果樹を栽培している。禅や農業に興味を持つ若者が世界中から集まって来て座禅を組んだり、有機野菜の栽培法などを学んでいるようだ。座禅と農作業と食事がセットになった1日プログラムなどは年配の人にも受けているようだ。そのプログラムに参加している人達を観察しているとついつい微笑ましくなってくる。やはり人は土が恋しいのだろうか。ここには宿泊施設もある。ここに宿泊して静かに物など考えるのもよかろう。もちろん座禅も組めるし、農作業に参加する事も出来る。食事は有機野菜を使った精進料理が出されるようだ。2週間のプログラムもあるし、2ヶ月のプログラムもある。1年以上のプログラムもあるようだ。
たわわに実るリンゴがあまりに美味しそうだったので、譲ってもらいたいと思ったがダメだった。近日中に開催されるリンゴの試食会まで待って欲しいと言った。
禅センターのあちこちにちょっとした庭園のような場所が出来ていて、そこには木のベンチやテーブルが置いてあり、そこで読書したり、瞑想したり、寝そべって空の雲などを眺めたり出来るようになっている。天気の良い時など、そこのベンチに座って鳥のさえずりを聞いていると「ここは天国だ。」と思う。そこでちょっと変わった猫に出会った。多分メス猫だろうが、真っ白い美しい顔をして、体には2つ、3つの黒い斑点がある。猫好きの私は、ついつい彼女の気を引こうとして舌打ちなどしてみるのだが、彼女はこちらの事などすっかり無視して芝生の中の虫から目を放さない。「おい、おい、こちらの立てる音にせめて耳だけでも動かしたらどうなんだい。しょうがないなあ。」と思って彼女のそばまで近付いてみても全然こちらの方を見ようともしない。すっかり無視されてしまった私は、「これ以上彼女のプライバシーを侵害するのはよそう。」と思ってその場を立ち去った。そしてそのかわりにその近くで農作業をしていたシアトルから来た若い女性とおしゃべりした。彼女は「いつか友達と共同で土地を購入して農業に従事したい。」と言った。しばらくして元の場所に戻ってみたら、さっきの猫が木のテーブルの上に寝そべって私の友人と遊んでいるではないか。びっくりしたなあ。彼はどうやって彼女をてなづけたんだろう?何でも彼がベンチに寝そべっていたら、彼女がそのベンチに飛び上がって来て彼の横に寝そべったのだそうだ。なでようとしたら、3度も手を噛まれてしまったのだという。私がもう1つのベンチに座ったら、テーブルの上から今度は私のベンチまで降りてきて、私の横で寝そべってしまった。ついつい彼女の首と咽をなでたら、やっぱり私の手も噛まれてしまった。危害を加えるというような激しい噛み方ではないが、ちょっと恐い噛み方なのだ。「ねえ、あなた。もっと素直な方がいいんじゃないの。幼時体験がよっぽど悪かったのかねえ。子猫の時に人間に虐待でもされたのかしら。」なんだか猫の相手をしているというより、人間の相手をしているような気になってしまった。人間に媚びることなくのびのびと生きているのかも知れないが、まったく人を食った猫だった。近くのビーチまで散歩した帰りにまだその猫が居るかと思って同じ場所に戻ってみたが、彼女の姿はどこにも無かった。